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日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

川村秋夫 全身咬合学会  抄録

咀嚼訓練と頸椎可動域の関連について

  仙台 川村秋夫  akio kawamura

1. はじめに

 顎関節症(顎機能異常),咬合関連症の不定愁訴の症状の多くは、頸部筋群と咀嚼筋の圧痛の検査と関連が深い.自覚症状が強いときは,筋触診で筋の圧痛が強く出ていて,かつ首や肩の関節可動域が悪い.症状が落ち着いてくると,筋の圧痛は軽減し,下顎や首が楽に動き,首肩の関節可動域は良い傾向にある.咀嚼筋と頸部筋の圧痛と頸部の可動域と相関性が深いことが臨床上示唆されている.
 硬いプラスチックで製作した全歯牙接触型スタビリゼーションsplintを極小のタッピングにて,臼歯部をていねいに調整を繰り返し,前方と側方運動時には,前歯や犬歯小臼歯で滑らかに誘導開始は角度が緩くして滑走し,臼歯部の均等な接触点が増えタッピングが収束すると,安定感を感じる.スプリント治療,理学療法,運動療法などで,症状が少落ち着いてくると,スプリントにおいてはタッピング音がシングル音になり大きく響き,他者にもはっきりと聞こえる.すると咀嚼筋と頸部筋の圧痛が軽減し,楽に首も動きやすくなっている事が多い.頸部のマニピュレーションを行わなくても,咀嚼筋と頸部筋の圧痛がかなり減少し,首の可動域が拡大し,さらに水平位で膝を立てて触診すると,膝の裏(委中)の圧痛,足の指先まで軽減し,生理的な検査で電気抵抗値も変化している患者さんが見受けられるのも臨床的な事実である.

2.咀嚼側と首の可動域の関係

 下顎を右に変位させ犬歯部で上下の歯が軽く触るように噛んでいたときは,頭位の変化は右に側屈,捻転がしやすくなり,左の側屈捻転はしにくくなる.反対 左側の犬歯部で軽く噛んでいると,左に首の可動域は拡大し,右は制限される.下顎の変位側と首の側屈捻転は,関連が深い事が示唆されている.
 負荷運動の影響は,右で強くガムや弾性のあるチューブ(パイプ)を数回咀嚼すると、右に首が倒れやすくなり、捻転がしやすくなることが多く、左に行きにくくなったとさえ感じる。それを利用して,首が左に動きにくく不快であるとき,意識的に強く左咀嚼を強く数回行う.また後屈しにくい時は,大臼歯部で両側同時に数秒間,数回行う.その後首をゆっくりと前後に動かすと,以前より後方に可動する角度と距離が拡大し楽に動きやすいことが本当に自覚できる.咀嚼側と首の側屈捻転は,関連が深い事が示唆される.
 首の可動域拡大法するために二軸、三軸で合成した方法を紹介する.むち打ち症状や頸部筋群の圧痛も軽減し,症状の緩解が起こりやすい.頭部を垂直にしておいて,前後屈,側屈,捻転とゆっくり動かして,不快な動く方向や位置を自覚したら,咀嚼側を前後左右の位置変えて数回行った後に,首を動かすと,楽に大きく動き,可動域が拡大していることが自覚できる.また首を動かし可動域が少し不快な位置を捜して曲げて捻った位置で,両側の咀嚼を強くすると、等尺性運動によりその位置での筋の弛緩が起こり,首を動かしたときの不快症状が軽減し、より可動域が拡大していることが多い。 スプリントを併用すると,頸部の関節可動域の拡大が起こり,頸部痛が軽減することができる.
 スプリントの上から弾性チューブを用いた不快な首の位置での咀嚼訓練(等尺性運動)は、即効性にその位置の筋を弛緩させ可動域を拡大し不快症状を軽減できる事がある.この方法は,安全な頸椎可動域調整方法であり、家庭で簡単に行えるため臨床応用が高いと思われる。
 毎日の首を曲げたままでの偏咀嚼は悪習癖となり、首の曲げた状態から可動域をより拡大させ,偏位させることが示唆される.一般的には,首を真っ直ぐにして、偏咀嚼がないように左右全体的に咀嚼することは、首の可動域を適切に拡大し、症状の軽減に繋がる可能性が高いと思われる。
 
3.咀嚼と身体運動機能の向上

 臼歯部をしっかりと咬合接触させた義歯やスプリント治療を行い,タッピングが安定し,患者自身も咬合位に安定感が自覚できると,首の可動域がより拡大すると、膝の裏(委中付近)の筋触診にて圧痛が軽減する事を上記に述べたが,水平位からの上体起こしも楽にできやすい.歯科治療中に,うがいするときに,義歯を調整し入れておいてタッピングした後,水平位から起きあがる上体起こしが,義歯なしでタッピングした後よりも,楽に軽々と起きあがるのである.ベットから起きあがる時も,義歯入れていた方が起きやすいと言う.また,局部義歯を入れておくと,朝起きても首の痛みが少なく,義歯を入れてないときは,首や肩が痛く,整形外科や接骨院に通院する事が多かったと臨床の中で患者さんより教わった.
 痛みがない噛める義歯は,咀嚼だけでなく,就寝時の水平位においても,咬み合わせを安定させる装置でもあり,立位においても頭位の位置関係を安定させる効果が見受けられる.

5.顎運動訓練法 (ポジティブワークとネガティブワーク)
 
 筆者が推奨する運動訓練は、屈筋群に行うポジティブワークの負荷運動であり,固有受容性神経筋促通法(PNF:Proprioceptive Neuromuscular Facilitation)や操体法で推奨されている、痛みが伴う運動は避け,より可動しやすい力を入れやすい方向に最初は行うのである。多くの伸展運動に制限があるときは、伸展運動の逆の屈曲運動(逆モ-ション)を行い,等尺性の負荷運動である。屈曲運動に負荷をかける運動は,ポジティブワークといわれ,筋はかなり疲労するが回復は早い.膝を曲げて体重をかける階段を上る運動やバーベルを上げて屈曲し縮むまたは閉じる運動であり,咀嚼運動でもある.
 伸展したときに負荷をかける運動は,ネガティブワークといわれ,一見楽に見えるが,後に筋肉痛を起こしやすい.たとえば,足を伸ばしたままで体重がかかる階段を下りる運動であり,バーベルを降ろす運動がある.股を大きく開くように他者が負荷をかけてより伸展させようとする運動(股裂き)などは,伸展させる負荷運動は,筋肉痛が起こりやすくトレーニングの初期には避けた方がよい.

1)開口訓練の注意点
 口を少し開けた状態で,より口があけるように指で開けるような負荷をかける伸展負荷運動は,開口障害が 閉口筋の拘縮と考えた方法であり,伸展負荷のネガティブワークとなり,筋肉疼が出やすくいことがある.開口障害の時は,開口伸展負荷運動(開口するように伸展して指でさらに開口するように広げる負荷運動) は 勧められない.この方法で改善するときには,伸展(開口)時に疼痛があり,痛みのために無意識に屈曲(閉口)時の等尺性の力がかかっていることが考えられる.痛みがなければ,始めから 閉口時の等尺性負荷をかけた方が安全である. 

2)筆者が推奨する顎運動訓練法
(1)口角伸展ストレッチング
 決して痛くない範囲で口角伸展のストレッチング運動.痛みが出ない程度に5-7秒間「イー」と口角を横に伸展させる.下顎の左右偏位があるとき,口角ストレッチングを数回行った後に,light tappingすると,tapping positionが変化している時がある.頭を後屈すると非偏位側に,早期接触がはっきりとすることがある.
(2)側方負荷運動:等尺性ストレッチング   
 下顎の左右の側方運動を行う時に、軽く手指で抵抗し等尺性負荷を行う.痛みが伴うときは、決して行わず,楽な方に強く押しつけ,痛みが出ない狭い運動範囲で行うと良い.
(3)開口訓練 その1 
  症状誘発試験をから 症状軽減負荷運動を考察する
木片などを噛んだときに,疼痛が増大する側(右か左)では行わず,反対側で痛みが出ないときには,その側で数秒間噛んでみる.左右とも噛むだとき疼痛症状が誘発されないなら,左右同時に弾力のあるシリコンチューブ等を両側で噛んでみる.
チューブは,5秒ぐらい咬ませる等尺運動を数回行い開口すると疼痛が軽減し開口距離が拡大している事が多い.弾性チューブを噛む事は,閉口筋収縮の反作用で筋の弛緩が起る.
(4)開口訓練 その2   閉口時の等尺性 等張性の負荷運動 
 開口時に痛みや制限があるときには、閉口時に負荷抵抗をかける.しまり開口制限があるときは、開口できるところまで開口させ、その位置で 手指を歯の上に置き,患者に口を閉じるように指示し,指で静止させる等尺運動や閉口するときに指で抵抗をかける.痛みが伴う場合は、決して行わない。

又垂直成分運動の制限があり疼痛があるときは、水平成分運動(前後、左右運動)の痛みを伴わないものをより多く行ってから制限のある運動を試しに行うと軽減していることが多い.(三軸体操)
臨床的に開閉運動に制限があったり、左右の側方運動に差が見られたり、開閉運動が直線的にできにくい時、逆モ-ションである操体法,PNF運動訓練後には、関節可動域が拡大し、開閉運動が楽に行われ、咀嚼筋のリラックスが起こる.

6.スプリントと顎運動訓練で症状が軽減後の添加型咬合治療(接着性レジン・スプリント)

 スプリント治療で症状が軽減後に,スプリント中断プログラムとして,再発するかどうかを数月診る意見がある.筆者は,咬合診断を行い,接着性レジンを使いリハビリ咬合治療をしている.スプリント治療後に症状が軽減したとき,スプリントを外した直後に,はっきりとした早期接触がり,早期接触が天然歯の場合は,先に削るべきでなく,臼歯部のインレーや歯冠修復や補綴物が低位で,接触点が少ないとき,早期接触を削合しても,臼歯部の中心窩やB-contactが接触するとは限らない事が多い.スプリントを外したとき早期接触がはっきりせず,特に第一大臼歯部の中心窩やB-contactの接触点が弱く「無咬合接触」と「接触点不足」の症例が多い.特に,インレーは,咬合していない.その時は,一切天然歯を削らずに接着性レジンを使い,連結しないでレジンを添加する咬合治療を行っている.時間をおくと,接触状態が弱くなり,安定するまで数回修正する事が多い.咬合面の,一歯ごとの接着性スプリントの治療である.咬合接触点が安定した後に,患者さんが希望したときに歯冠修復を行える暫間的な咬合治療を大切にしている.臼歯部低位の時の,前歯部の天然歯の早期接触の削合は避けたい.

7.終わりに
 顎関節症治療で他院から来院する患者さんの多くは,スプリントの調整不良である.誘導開始のガイドが強く,滑らか動かないし,タッピングは,不安定で,接触点が不足している.調整不足で安定感が得られないままに,スプリント治療で中断している事が多い.またスプリントが 臼歯部だけを5-10ミリほど挙上したものであり,入れてられない.ある場合は,スプリント治療で症状が軽減したら治療は終了,中断といわれ,スプリント外していたら,咬み合わせが不安定で,症状が再発してきたとのことである.筆者も卒業後のほぼ30年たち,始めの10-20年は,迷いがあった.老眼になった最近の8年近くは,より成功率が高くなった.21世紀には,咬合治療が,身体,全身に与える影響が脳磁計,心電図やAMI,聴力計やその他の医学的生理学的な計測機器などで,客観的に医療価値としてより明確に正しく評価されることを願ってやまない.またT-Scan,プレスケール,ブラックシリコンのscan も,また咬合器での模型咬合検査を含めた咬合診断や咬合検査が未だ健康保険に適応されて無く,全く評価はされていないことは,咬合医学になりえてなく,真に情けない.そのため顎関節症・顎機能異常のガイドラインの治療は,スプリントと咬合調整の削合以外,健康保険だけではとうてい満足のできる治療は難しく,患者さんのためになっていないし,咬合治療が無料のボランティアであるなら,若手の歯科医師は熱心に研鑽しにくい環境である.本学会においても石川達也会長をはじめ渡辺誠教授,尾沢文貞先生,中村昭二先生ら多くの諸先生の咬合と全身との関係の研究が進み,歯科の咬合治療が全身咬合として医学的評価が正しくされることを願ってやまない.


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